CAMPUS LOVE


「っか〜!!やあっぱり大学野球ってすっげーよなあ兄ちゃん!」
「これ由太郎。そのように騒ぐでない。
 周囲に迷惑が…。」

その日、村中魁・由太郎の兄弟は知り合いのツテでとある有名大学の野球部の見学に来ていた。
おりしも練習試合の日。
なかなかに高レベルなプレイを見ることが出来て由太郎ははやる気持ちを抑えられずにいた。
勿論、魁も今日の試合を楽しんでいたが。
見学の高校生という身分をしっかりと気に留めて由太郎に注意を促した。
「へ〜い。ったく兄ちゃんはかたいんだからな〜。」
「見学の身で騒ぐのは感心出来ないぞ由太郎。」
「見学っつってももう帰るとこじゃん。」
「門を出るまでは見学だ。いいから大人しくしておけ。」

「ちぇ〜。」

(まあいっか。それより試合の事さるのにも話してやろ。)

由太郎は生真面目な兄の言葉に多少辟易しつつ。
今日の試合の事を、最近出来た仲のいい他校生に教えようと思っていた。

そうして早速と、メールを打ち始めた、

その時のこと。



「待ってくれ!猿野くん!」

突然大きな声がキャンパス内に響いた。
その声が示した名前は。


「「猿野…?!」」



###########


猿野天国はその日、
知り合いの大学教授に趣味で書いた数学論文を見せるため
その大学を訪れていた。

もう何度か同じ用事でこの場所に来ているため、
その教授の下についている学生や院生、助教授とも顔見知りになり。
しばらく論文の内容を話し合ってから帰ろうとしていた。

その時に、一人の助教授から話がある、と呼び出されたのだ。

「あの、話ってなんですか?」

天国はその助教授とも何度か話したことがある。
優秀で研究の好きなエリートタイプ。
まだ30にはなってないだろう若い助教授だ。
軽く後ろに流した髪と、縁の分厚い眼鏡が不思議とよく似合う、わりと綺麗な顔立ちであった。
つまりは、モテるであろう妙齢の男性である。

天国にとっては、特に嫌いでもない…まあ。顔見知りである。
個人的に呼び出されるほどは仲はよくないはずだ。

怪訝に思いながら、天国が問うているとその助教授はやや俯き言いよどんだあとに。

天国にはっきり向かい合うと、言った。


「あの…僕…は…。」

「はい?」


「驚くと思うけど…。」


「…はい?」


「君の事が、前から好きだったんだ…。」


「…………はい?」



天国は言われたとおり、驚いていた。



############

そして数分後、キャンパス内の出来事に至る。


「だから!オレははっきり断ったでしょう?
 こんな人目につくところまで来てバカなことはやめてくださいよ!」

「人目なんか僕は気にしないよ!僕は本気なんだ!」

結局天国は丁重に断りを入れたのだが、彼はすぐには諦められず。
危険なオーラを発し始め、それを察知した天国は早急に部屋を出たのだ。

けれど、彼はそのまま天国を追い。
人の多く居る正門前にまで来たのだ。


「お願いだ猿野くん…。僕と…。」

彼は天国の腕を握り、熱のこもった瞳で天国を見つめた。
美形ともいえる彼のそんな瞳は、女性であればすぐに陥落できたのだろうが…。

いかんせん、天国は男である。
しかも超のつく美形を毎日のように多量に見ているのだ。
陥落することはできなかった。

「だから、オレは…。」


「猿野…。」



「そこまで。」

低い声が二人の間に響いた。
そこにいたのは、村中魁。

「あ…アンタ、村中の兄さん…。」
何故ここに、と聞く前に。
魁は天国の腕をつかむ手を取ると、その尋常ならぬ指の力により男の手を引き剥がした。

「痛っ…!」


彼は突然現れた長身の少年に驚きながら魁の眼を見据えた。
そこには彼の本気が見て取れた。

しかし、魁としてもこの状況はほうっておけず、何より…。


「嫌がる者に無理に迫るのは男児としてあってはならぬことではありませんか?
 貴殿…一時の激情でこの者に心からの拒絶を受けることを望むのですか。」



「……。」



魁の言葉に、彼は性急だった自分を省みる。

そのおかげで、冷静な気持ちを取り戻す。


「…そう、だな…。
 君の言うとおりだよ。」


そういうと、彼は姿勢を正して。
天国に言った。


「驚かせて…ごめんね。猿野くん。」


###########

「っか〜〜にいちゃんカッコよすぎ!
 ズリぃよ、いいとこどりじゃん!!」

「何を言っている。
 ただ思ったことを言ったのみだが?」

騒動の後、天国は村中兄弟とともに大学内のカフェに居た。
説得してもらった礼に、と。

「いえいえ、マジ助かりました。
 あのひと真面目すぎっすからね…悪い人じゃないんすけど。」

天国は苦笑しながらコーヒーを口につける。

「それより、猿野。」
「あ、そうそう!さっきのかっけー兄ちゃんて誰?
 それに何でさるのここにいたんだ?」

魁の言葉を、由太郎は横から掻っ攫う。
聞きたいことは同じだったので、魁もすこし眉をひそめるのにとどめた。

すると天国は答える。

「あの人はここの数学科の助教授さんだ。
 今日オレが用足しにきた教授の助手さんみたいな感じかな。
 オレはここに…まあ、趣味で書いたもんを添削してもらってきただけだ。」

「趣味で…って、何?」

天国の意外な答えに由太郎と魁は驚いた。
以前試合で見た明るく奔放な高校球児の姿とはかけ離れた様子に、改めて気づいたのもあって…。

「ん、数学の論文…考察部分でちょっと言いたいこと言い過ぎちまったから見て笑ってもらおうかと思ってな。」

「す…数学?!」
「論文…?」


天国の答えに更に驚く二人。
すると、後ろから別の影が現れる。

「猿野クン。ここにいたのね。
 会いたかったわ。」

「あ…アンタ…。」

天国の驚いた表情に、村中兄弟が振り向くと。
そこにはなんともナイスバディの女性が居た。

二人にも見覚えがある。


「ディエチさん…。アンタ何してるんですか、こんなとこで。」

凶賊星学園の野球部監督、Missディエチだった。

「さっき川原教授のところに用事でね。
 そしたら皆山クンが貴方を連れて行っちゃったって言うじゃないの。
 ふふ、愛を告白されたのかしら?」

彼女は可笑しげに言った。
どうやらこの女性も、猿野とこの大学の関係をよく知っているようだ。
あまりにも意外な関係に村中兄弟は呆然としていた。

「…もう話が回ってるんですか?」

「ええ。それで貴方を探していたら黒撰のボウヤとお話中なんてね。
 よかったらこれから私と甘い一日を、と思ったんだけど…?」

「分かってるようですね。オレは取り込み中ですから次にしてください。」
天国は冷静だった。
この女性と必要以上に仲良くするつもりは最初からないのだから。


「つれないわねぇ。でもそんなところも好きよ?」

「え…んっ…。」

「あ〜〜〜〜!!!」

「……!」


Missディエチは、天国の顔を強引に向けると、軽く口付けた。


「じゃあ、またねv」
呆然としている間に彼女は踵を返し、その場を去っていった。

「…ったく…。」

天国は口紅のついた唇をふき取った。



#############

「由太郎…由太郎!いいかげんに正気に戻らないか!」
「え…、にいちゃん?あれ、さるのは?」

どうやら妙齢の女性のキスは、由太郎には刺激が強かったようで。
由太郎は意識を飛ばしていた。

「猿野なら既に帰ったぞ?
 全く…敵前で呆けるなどだらしのない。」

魁もそういいながら、あまり冷静ではなく。
心中はかなり複雑だった。

好きな相手の知らなかった一面。知らなかった人間関係。知らなかった表情。
たくさん知ることができても、それは全て他人から見せられたものだったから。


「…なあ、にいちゃん。」
「…なんだ?」


「……さるののこと、好きか?」
「無論。」


「敵、多いな。」
「同感だ。勿論拙者たちも敵同士だ。」



「「…負けたくないな…。」」


二人は同時に思って。


同時に笑った。



後日、例の助教授が十二支高校に来たそうだが。
十二支野球部により、またも追い返されたそうだ。


それを聞いた村中兄弟が行動を起こしたのは、また別の話。



完璧にまとまりのない作品になりました…ホントすみません!!
あき様、遅くなりまして本当に申し訳ありませんでした。

最後の方に出てきたディエチは、本当はオリジナルキャラにする予定でしたが。
なんとなく出したくなったため、急遽変更しました。
そのせいで話が見事に狂いました。
本来なら村中兄弟もそれぞれ天国にキスする予定だったのに(泣

長くお待たせしてこんなのでほんとにすみませんでした!!

素敵リクエスト本当にありがとうございました。


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